とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
そこまでは良かったのだ。
問題はここからだった。
老婦人は虎太郎のかけた暗示通り、忍を足止めしている。
…よしよし!
虎太郎は木の影から小さく呪文を唱え、そっとベビーカーを動かした。
音もなくベビーカーはこちらへ移動して来る。
…50センチ…1メートル…1メートル50センチ…
虎太郎は集中していた為、自分が狙われている事に気付いていなかったのだ。
コロコロとベビーカーが2メートル程移動した時、彼はやっと気配に気付く。
それは焼けるように射す視線、それと…。
─シュッ…!!
「…っ!?…うわぁっ!!
普通の人間には見えないだろう輝く矢が彼の鼻先を掠めた。
虎太郎は確信した…それが神アポロンの射る矢であると。
…ヒューガ!!
脳裏に響いたリサの声にハッと振り返った。
見ればこちらに向かっていたはずのベビーカーは、コロコロと勢いを増して車道へと飛び出そうとしているではないか!
「…しまった!!」
アポロンを気にしている場合ではない。
虎太郎は迷わず公園のフェンスを飛び越えた。