とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
その虎太郎の背後から耳元を再び矢が掠めた。
間一髪首をグイッと動かし避けたが、矢はケイに向かって一直線である。
それと同時に車道の車がケイの目の前まで迫っていた。
当たると思った瞬間、それは起きた。
ベビーカーに手を伸ばした虎太郎は目を見張る。
見開かれたケイの瞳が一瞬深紅に変わったのだ。
するとまるで球体のような歪みが出来、虎太郎とケイを包み込んだ。
─バシッ…!!…ガシャンッ…!!
咄嗟にベビーカーごと抱え込んだ虎太郎は辺りの「大丈夫かっ!?」と叫ぶ声に顔を上げた。
ハッとケイを見れば「あうーー!」と楽しそうに四肢を動かしている。
「…良かった…大丈夫だよ…」
わらわらと集まって来る野次馬に紛れて、またあの焼けるような視線を感じた。
…くそっ…!まだ狙ってやがる!
本来ならケイに暗示を掛ける予定であったが、アポロンに狙われていては不可能である。
そうして虎太郎は騒ぎの中、叫びながら走って来る忍を横目にその場を離れたのだった。