とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
虎太郎は愛しい恋人の額にキスを落とすと、彼女が微かに身動ぎする。
『リサ…君は戻ってもいいんだよ?』
ゴシゴシと目を擦るとリサは首を横に振った。
『平気…。ヒューガの傍が一番安心出来るの…』
寝起きのリサは殺人的に可愛い。
『…いつもそのくらい素直でもいいのに…』
堪らず抱き締めて耳元で囁く。
さっきまでの張り詰めた気が氷の様に溶けてしまいそうだ。
彼女の少し冷たい唇を奪い、優しいキスを落とす。
目の前のリサの輪郭を月明かりが照らした。
暫く見つめ合っていた二人だったが、急に虎太郎の表情が厳しくなる。
『ねぇ、リサ…』
『なぁに?』
『月なんて…出てたっけ?』
あるはずがない…何故なら今日は新月なのだから。
故に“月明かり”もあるはずがないのだ。