とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
そんな彼の心の内を察したのか、父である王ゼウスは言った。
“収拾の着かない事態にならぬようにな、アルテミス…”
ゼウスはこの小さな星を手中に納めたいと言い出したのだ。
…こんな害虫だらけの星の何が良いと言うのか…。
アルテミスにはゼウスの考えが解らなかった。
納得は出来ないまま“はい”と答えると、ゼウスが小さく笑った。
“人間とは実に面白い生き物だよ、アルテミス。その利用価値はまだある。”
そう彼は言うが、アルテミスはただ目障りとしか思えなかった。
…まぁ、多少数を減らすぐらいは構わないだろう。
どうせ人間が自分に敵うはずがないのだから。
敵うどころか見つける事すら不可能なのだ。
ごみごみとしたビルの生えた街を見下ろし、まずはターゲットの気配を探る。
その目の前を無数の黒い影が縦横無尽に飛び交っているのに気付いた。
…使い魔…?
蛇行を切り妖気を帯びるコウモリ…間違いなくバンパイアだった。