とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
何故あんなにすんなりとバンパイアは引き下がったのか…。
アルテミスは何かがあるように思えてならなかった。
煩く飛び回るコウモリの群れが消え、辺りに静寂が戻る。
…静か過ぎる…
妙に胸がざわついてならない。
─“巻き添え”は御免ですから。
去り際に残したクドラクの言葉がアルテミスを余計慎重にさせる。
自然と愛槍を握った右手に力を込め、彼は周囲をより一層気を配りながら索敵網を張り巡らせた。
地上にはゴミのような人間達が這い回り、夜であるのに明るい街を埋め尽くしている。
もしやあのゴミに紛れて他のタイタンの使い魔が潜んでいるのかとも考えたが、特にその気配もなかった。
聞こえるのはただ風の音だけ…。
その風が微かに臭うような気がする。
直感的に警戒したのはアポロンから聞いた言葉のせいかもしれない。
アルテミスは自分が次にすべき事を思い出し、先ほどまで使い魔が集中していた方角に目を向けた。
穏やかだが確かな力の気配がひとつ…。
かつて熾天使であったウリエルと似たそれに、アルテミスはニヤリと口元を歪めた。