とある堕天使のモノガタリⅤ ~TRINITAS~




実家である黒崎家では夕食後のまったりとした団欒の一時だった。



父達はお酒を飲み始め、すっかり上機嫌でケイをあやす。



忍は母の静と洗い物をしながら夫の愚痴を溢す…そんな、いつもと変わらない夜だ。



そして9時を過ぎた頃、愚図り出したケイに授乳をし、忍は我が子を寝かし付けながら一緒に寝るはずだった。



だが、今日に限ってケイはなかなか寝付かない。



別に愚図る訳ではないが、さすがに放置して先に寝る気になれず、忍は小さなため息をついた。



その様子を見た静は「散歩でもしてみたら?」と声をかけた。



「散歩?…こんな夜遅くに?」



「庭に出るだけでもいいのよ。抱っこでもおんぶでも、忍はちょっと歩くと寝付いたりしたわよ?」



冬の寒さが気になって、京をブランケットに何重にもくるむ。



そして自分もボアのジャケットを羽織るとケイを抱いて中庭へ出た。



子守唄を口ずさみながら中庭を歩く。



辺りは暗く、枝だけになった木々が何処か不気味だった。



だが、不思議と怖いとは思わなかったのはケイが居たからかもしれない。



忍は我が子に視線を落とすと、父親そっくりな翡翠色の瞳を覗き込んだ。
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