とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
だがそれは間違いなくアルテミスを狙って放たれたもので、彼は光線が“インドラの矢”ではないかと疑い始めていた。
天から放たれている上に気配すらない…神の成せる技としか考えられなかった。
もしインドラの矢であるなら、相手は父である天空神に違いない。
『ゼウス様なのですか…?』
その問いにゼウスは答えない。
代わりに天空が再び光を放つ様子に愕然となる。
二度は何とか持ち堪えたが、三度目は跳ね返すどころか、避ける気力さえ無いに等しかった。
…違う…ゼウス様ではない!
貫かれた腹を抱えてぐらつく身体を支えると、アルテミスは荒い呼吸を繰り返す。
たとえ自分が彼の駒であったとしても、まだ目的を果たしていない。
ゼウスはベルセルクの子供を手中にしたかった。
ならばそれを阻止する事はあり得ないのだ。
とすれば、これはインドラの矢ではない。
かと言って、タイタンの仕業かといえばそれも考えにくい。
何故なら、あの吸血鬼達が足止めしている時に自分を狙った方が手っ取り早いのにそうしなかった。
…まさか…人間の仕業⁉
“その利用価値はまだある”とゼウスは言っていた。
『わ、私が人間より劣っているはずがないっ‼』
アルテミスは咆哮のような呻きと共に抉られた腹を再生した。
そして手にした愛槍を振りかぶり、天に目掛けてそれを放った。