とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
そんな右京の隣に腰を下ろした忍は「ねぇ…」と彼を覗き込む。
「右京は知ってたの?あの時虎太郎君が居たのを…」
あの時とは他でもないアルテミスとの一件である。
右京は「いや…」と小さく答えた。
「本当に偶然だよ。俺はただ様子を見てただけだよ…衛星を使ってね。」
そう言って彼はその一部始終を語り出した。
ケイを狙っているのが誰なのかは衛星だけではわからなかった。
それがアルテミスであると虎太郎から聞かされた時は、流石の右京も不安を抱かずにはいられなかった。
だが、虎太郎は「撃退する」と言って退けた。
『“撃退”…?あのアルテミスを?』
ついそう呟いてしまった右京にロイはフッ…と笑った。
『クロウ…俺やヒューガがランドサットに目を付けたのにはもう一つ理由があるんだ。』
そう言ってロイはモニターのウィンドウを切り替え、忙しなくキーを叩いていく。
『1から4号機だけハッキングしたのに5号機だけはダミーを入れたのは通常通り作動していると見せかける為。…そう、通常通り…だ。だが、通常通りじゃない使い道がある。』
彼がEnterキーを押すと、画面に赤字で“absolute”という文字が浮かび上がった。
『“absolute”(極秘)…?』
『そう。この5号機だけは裏コードが存在するんだ。元々5号機はNASAが軍事用にと設計してた衛星で、理由は知らないがその計画が途中で破綻した。つまり…』
ロイは得意気に右京を振り返って口角を上げる。
『このランドサット5号機は軍事衛星がベースなのさ。』
右京はそんな彼をただあんぐりと口をあけて見つめ返すだけで、言葉を発する事さえ出来なかった。