とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
室内の壁には天井近くまである本棚にギッシリと書籍が収められている。
…あぁ、そうそう、この感じっ!
やや埃に似た古書特有の臭いを吸い込み深呼吸をすると、虎太郎は中央に置かれた長テーブルに腰を下ろした。
ふと、窓際に目をやるとシンディがぼんやりと外を眺めている。
『やぁ、シンディ。』
そう声を掛けてみたが、彼女は全く反応しない。
『……?』
頬杖を付き、どうしたんだろうかと考えながら様子を伺う。
『シンディ?』
『わっ!ヒ、ヒューガ⁉︎いつから居たの⁉︎』
『さっき。…どうかしたの?』
シンディは虎太郎の問いにぎこちなく笑みを返すと『なんでもないわ』と言って立ち上がった。
『そろそろ行かないと。ごめんなさい、ヒューガ。またゆっくり話しましょ?』
逃げるように去って行く彼女を見送り、虎太郎ははて?と首をかしげた。
暫くして背後の扉が開き、アランが小脇に幾つかのファイルを抱えて入って来た。
『特攻の復帰か。改めて歓迎するよ。』
そう言われて恥ずかしそうに笑う虎太郎の前に彼はファイルを並べた。
『さぁ、どれから行く?』
『…アラン、本当に歓迎してるの?』
『もちろん!だからこうやって選ばせてあげるんじゃないか。』
騎士修道会からの依頼ファイルとアランを交互に見てから、彼は諦めたように溜息を吐いた。
『わかったよ、わかりました!任務参加すればいいんだろ⁉︎』
『クロウより話が解りそうだな。』
『右京の奴またごねてるのか…って、それより…シンディなんだけど…』
そう言いながら虎太郎はチラリと扉に視線を向けて『何かあったの?』とアランに小声で聞いた。
『ああ…命日なんだよ。』
『誰の?』
『彼女の姉さ。シンディが秘密結社に入ったのもあの事件のせいだしね。』
『事件?』
アランは棚にある本を指でなぞりながら話し出す。
『もうすぐ10年になるのかな…まだ彼女と出会う前なんだけどね。』
そして一冊の本を引き抜くペラペラとページをめくり、虎太郎の前に置いた。