とある堕天使のモノガタリⅤ ~TRINITAS~


夕方、大欠伸を漏らした右京は部下が帰り支度をしているのに気付く。



『なんだ、今日は早いな…』



『今日は観たいテレビがあるんですよ、7時から!』



『…テレビ?…んなもん録画しとけよ…俺をひとりにするつもり?』



『まだビルが居ますよ!っつーわけで、また明日〜』



そんなやり取りに、新入りのビルは右京を見て苦笑いをした。



『ったく…新入りだからってハイハイ言わなくてもいいんだぞ?』



『いや、大丈夫です。自分は稼がないといけないんで。早く帰ると妻がうるさいんですよ。』



『真面目だねぇ〜…まぁでも、残業したい時は確かにあるな。』



そんな他愛もない会話をしていた時、不意に携帯が鳴った。



着信画面の“虎太郎”の文字を見て右京は露骨に嫌な顔をする。



『…なんだよ、電話してくんなって言っただろ?…えっ、今日?…そう言われても、まだ仕事だし…』



嫌でも耳に入って来る右京の会話に、ビルはもしやと考える。



『…だから、今日は無理だって。…いや、嫌いだなんて言ってないだろ…ああ、大事に思ってるよ。』



“まさか…浮気相手?…だから残業をしたいのか…!”



別れを告げた浮気相手からの呼び出しだとビルは確信する。



まずい場面に居合わせたと思い、仕事に没頭しているフリをして彼から目を離した。



『ビル。』



『は、はい!』



『ちょっと人と会わなきゃいけなくなったから先に帰るけど…頼みがあるんだ。』




『あ、はい!任せてください!アリバイ工作ですよね⁉︎』



『はぁ??…アリバイってなんだ…?』



『大丈夫です。自分は口が固いので、誰にも言いませんからっ!』



見積書のFAXを頼もうとしただけだったのに、何やら話が噛み合っていない気がする。



『あの…自分にも経験がないわけではないので解ります。…家庭でのストレスからそういう事をしてしまうんですよね。』



『え…ちょ、待った待った!何か勘違いしている!多分違う…いや、絶対に違うからっ!』




そんな訳で、有らぬ疑いをかけられた右京がP2に着いた時、いつも以上に不機嫌だった。



そんな様子にメンバーは気にもせず、よぉ!と軽く手を上げた。



『…ったく、散々だったぜ…。で、シンディがどうしたって?』



虎太郎は昼間アランから見せて貰った新聞記事をスクラップから取り出すと右京の前に置いた。



『…“人気モデル、変死体で発見される”…かなり前の事件だな。』



『アランの話だと、この事件がシンディがP2に入ったきっかけらしい。ここに書かれてる人気モデル、彼女の姉らしいんだ。』



記事には当時付き合っていたデザイナーとの不仲が原因で自殺したと書かれていた。



< 454 / 469 >

この作品をシェア

pagetop