とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
それはフランスのオルレアンにあるブティックの試着室を利用した女性が次々と行方不明になるという噂だった。
あくまでも噂として語り継がれ、現代ではただのデマだと解釈されている。
『まぁ、ユダヤ人の経営したブティックで女性誘拐がされるって噂だったから、背景には人種差別が絡んでると片付けられたみたいだが…火のないところには煙はたたない…と思わないかい?』
『噂の真相は違う…と?』
『オルレアンに誘拐事件自体はどうか判らないけど、単なる噂ではなくて何かがあるとは睨んでた。悪魔は人の強い思いに引き寄せられる。ソフィアの場合は格好の獲物になっただろうしね。』
アランは椅子を軋ませながら足を組み替えると、真っ直ぐに右京を見つめた。
『美に対する強い想い…自信と葛藤…それが妬みに変わった時、人間は過ちを犯す事がある…。』
“ソフィアがリヴァイアサンを呼び寄せた…”
アランはそう言いたいらしい。
七つの大罪のひとつである“嫉妬”を司るリヴァイアサンは、そう簡単には悪魔祓いもできなかったはずだ。
結果としてソフィアは、リヴァイアサンに取り憑かれ死に至らしめられたのだ。
『シンディはまだその事を引きずってんだろうな…命日だっていうし。』
虎太郎の呟きに右京も頷くと『じゃあさ』と立ち上がる。
『シンディ呼んで飲みに行くか!』
『ナイスアイディア!…と言いたいとこだけどそうもいかないみたいよ?』
虎太郎の言葉にムッと不満足そうな右京に、アランは鋭い視線を投げた。
『…どうやらまだ終わってないみたいでね。』
そう言って手にしたファイルを軽くヒラヒラと振ってみせたのだった。