とある堕天使のモノガタリⅤ ~TRINITAS~

右京はアランからファイルを受け取るとペラペラとページをめくる。


『…誘拐の調査?…騎士修道会からの依頼にしては珍しいな…』



『ああ、普段なら蹴る依頼だからね。今回は発生場所が気になったから特別に受ける事にした。』



ファイルをよく見れば、発生場所の欄に“オルレアン”と書かれている。



右京は、なるほどと呟きながらレポートに目を通す。



『また繰り返されるかも…と?』



『騎士修道会はそれを恐れてるみたいだが…どう思う?』



そう問われ、右京は顎に手を当てて小さく唸った。



『…もしここに書かれているとおり誘拐事件が連発しているのだとしても、リヴァイアサンではない気がする。』



もしリヴァイアサンが関わっていたなら、誘拐なんて回りくどい事をする必要がない。



そもそも、誘拐の意図がまったくないのだ。



『騎士修道会が何故このファイルをP2に回して来た理由が気になるな…』



そう言って右京は終始壁に寄りかかって黙っていたクリスに視線を向けた。



彼は『これは憶測だが…』と静かに口を開いた。



『昔グレイから聞いた話だから嘘か本当か判らないが、騎士修道会を破門になったハンターが居ると聞いた事がある。』



自ら組織を出て行く輩が大半ではあるが、クリス曰く、破門になったハンターは彼が知る限り他にはいない。



元ハンターはロシア人で、騎士修道会はその人物の奇妙な言動や行動の数々に頭を痛めていたらしい。



『そいつ、いったいどういう奴だったんだ?』



『“ダンピール”…つまり、吸血鬼と人間の混血だ。』



『えっ⁉︎なんでそんな奴を騎士修道会は仲間にしたのさ!』



『組織の上層部が絡んでるらしくて詳しくは知らん。グレイの話だと、当時は相当混乱したらしい。』



クリスの話を聞いていたアランは恐らく全員が思っただろう疑問を口にする。



『何故始末しなかった?混血ならば標的になる事も充分考えられたはずだ。』



『出来なかったのさ。ダンピールは…まだ子供だったらしい。』




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