とある堕天使のモノガタリⅤ ~TRINITAS~

オルレアンはかつてフランスの大都市だった。



第二次世界大戦においてアメリカ軍の空爆で壊滅的被害を受けたが、その後再建され現在は昔ほどではないが交通の便の良さもあり、多くの企業から注目を浴びるようになったらしい。



シンディはタクシーの車中から見える景色が、あまりにも緑が豊かな事に驚く。



姉がこの世を去って10年…やっと彼女の死を受け入れられるようになった。



方身代わりに大事にしていたソフィアの手帳を膝の上に乗せ、その表紙をそっとなぞる。



『…素敵なところね…』



そこに居ないはずの姉にそう話しかけてみる。



『パリもいいけど、あそこは人が多いからね。お客さん、観光かい?』



自分に話しかけられたと勘違いしたタクシーの運転手はバックミラー越しにちらっとシンディを見てそう言った。



シンディはなんだかそれが可笑しくて小さく笑うと『いいえ』と答えた。



『ああ、仕事かい。もし時間があるならロワールにも寄るといい。城からならオルレアンも一望できるからね。』



あそこからの眺めは最高だとか語る饒舌な運転手に別れを告げ、シンディはホテルに向かった。



チェックを済ませ、部屋の窓部に腰掛けながらラップトップを開く。



手早く事務所への連絡を入れると、バッグから姉の手帳を取り出した。



…さて、何処から辿ろうか…



ソフィアがオルレアンで生活していたのは約1年半。



その間にプライベートでフランスを一人旅する事も多かったようだった。



『ロワール…サンロ クワロ大聖堂…ライン川…こんなに回れるかしら。』



PC画面に表示させた地図を眺め、頭の中でプランを練る。



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