とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
その黒い渦は爆風と共に辺りの物を巻き上げる。
そして悲鳴にも似た耳障りな鳴き声…。
右京に視線を戻した田所は思わず背筋が凍りついた。
…なぜ…なぜ彼は笑ってるんだ…?
深紅の瞳をギラつかせ、ニヤリッとわらう右京に違和感を感じた。
…まるで…“悪魔”だ!
田所はその場から動けずただ見ていた…彼を。
右京が黒く渦巻くそれに腕を伸ばして何かを掴んだ。
風が弱まり、彼が掴み上げていたものに田所は唖然とした。
「…人…?」
それはあの、褐色の肌をした女性だった。
ジタバタと暴れる彼女の首を掴んだまま右京がゆっくりと口を開いた。
「…何をしてる…“アスタロト”…」
「は、放してよ!」
「質問に答えろ!」
「答えるから…放して…!」
右京がその手を放すと、アスタロトと呼ばれた彼女が苦しそうな呼吸を繰り返した。