君へ、約束の歌を。<実話元>


「じゃぁ先行ってるね〜!
愛璃もお点前やる前に、半東(お点前の補助)やるんだよね?」


『あっうん!すぐ行く!』



友華はヒラヒラと手を振って、
着替え場所から出て行った。



…扉を開けたことで、
かすかに迷い込んできた独特の香り。


嗅ぎ慣れた、大好きな抹茶の香りなのに。


その香りはいつもと違うように感じた。






私は、鞄から少し覗いてる定期入れを押し込む代わりにそっと抜き出す。



『…隠してたハズ、だったのになぁ』



…友華の前で涙が出なかったのが、
奇跡だった。


ぐっと胸が詰まって。



『やっぱり…出てきちゃうもんだよね』



閉じ込めたハズの、想い。



< 250 / 287 >

この作品をシェア

pagetop