君へ、約束の歌を。<実話元>
「じゃぁ先行ってるね〜!
愛璃もお点前やる前に、半東(お点前の補助)やるんだよね?」
『あっうん!すぐ行く!』
友華はヒラヒラと手を振って、
着替え場所から出て行った。
…扉を開けたことで、
かすかに迷い込んできた独特の香り。
嗅ぎ慣れた、大好きな抹茶の香りなのに。
その香りはいつもと違うように感じた。
私は、鞄から少し覗いてる定期入れを押し込む代わりにそっと抜き出す。
『…隠してたハズ、だったのになぁ』
…友華の前で涙が出なかったのが、
奇跡だった。
ぐっと胸が詰まって。
『やっぱり…出てきちゃうもんだよね』
閉じ込めたハズの、想い。