君だけが好き!
なんなんだろ、あの子。
そういえば、私は彼の名前すら知らないんだった。
明日になれば、きっと彼も忘れてるよね。
無理やり頭をポジティブ思考に切り替えて、走るのをやめる。
ゆっくり歩いて、息切れがおさまるのを待った。
「あれ、君、迷子?」
ふと声をかけられて、地面を見つめていた顔をあげた。
「やっぱり可愛いね~!」
そこには、下品な顔をした男が立っていた。
「これからお兄さんとお茶しようよ」
「私、門限があるので」
これは嘘じゃなかった。
門限を破れば、酷いことになる。
だから私は早く帰りたかった。
「いいじゃん、少しくらい」
男が私の腕を掴む。
振りほどこうにも、子供の力で大人に勝てるわけもなく。
門限を破ったらお母さんに怒られるな、なんて諦めかけたとき。
「やめろよ、オッサン!」
「あぁ?」
目を疑った。
そこには、彼がいたから。
「そいつは俺の友達なんだよ!離せ!」
友…達……。
私のせいで、友達だと言ってくれた彼を傷つけてしまう……?
いけない、こっちに来ちゃいけない。
「お兄さん、この子の親戚なんだよ。お母さんに迎えに来るようにって言われててね。だからさ、怪しい人じゃないんだよ」