あの夏。あの君は。
…――そして、
東京へ引っ越しをしてから、2日。
まだ見慣れない室内、風景、人並み。
その日、千恵は転校先の高校に新入生として仲間入りする日であった。
いつも以上に
メイクに気合いを入れ、
スカートは膝上10センチまで上げる。
傷1つ付いていない新品の学生鞄。
千恵の心情は不安しかなかった。
「お母さーん、行ってくるねっ」
台所で朝食の皿洗いをしている母に伝えた。
「はーい。いってらっしゃい。頑張ってね。」
水道から水が流れる音とまじり母の声も聞こえた。
革靴を履き、
外に出る。
千恵の左腕の腕時計は8時10分を指している。
(やばいっ。転校初日から遅刻なんて、やだ!!)
高校の登校時間は8時半。幸いにも千恵の家から15分ほど歩けば着く。
千恵は多少早歩きし、学校に向かった。