オノマトペ
「みんな上手だね」

拓斗の胸の内を知らないリディルは、拓斗のヴァイオリンに目をやりながら言う。

「ありがとうございます」

拓斗は軽く頭を下げる。

「この間、花音に弾かせてもらったけど……変な音しか出なかった。難しいね、それ」

「ああ……そうですね。ヴァイオリンはちゃんと音を出すのが難しい楽器なので……たくさん練習しないと、綺麗な音は出せないんです」

「拓斗はたくさん練習したんだね」

「……そう、ですね」

「たくさん練習したから、凄く綺麗な音」

「……」

リディルの言葉を聞いて、拓斗はしばらく黙り込む。

たくさん練習したから、綺麗な音が出せる。

……当たり前のことだ。

当たり前のことなのだけれど。

何か、胸の奥に引っかかって。

拓斗はヴァイオリンと弓をケースにしまった。

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