オノマトペ
本人は何も言わないが、学校で弾き語っているのだって、ストラディバリウスを手に馴染ませ、自分の手足のようにするためだろう。

バイオリンは正確な音階を出すのが難しい、中々我侭な楽器だ。

そんな彼らと真正面から向き合い、語り合い、そして共に音を奏であう。

互いを極限まで高めあった者たちの奏でる音は、やがて聴衆者をぐるりと巻き込んで、別世界へと誘っていく。

こんこんと湧き出でる泉のように、溢れる音の世界へ。

そういう世界へ導くことが出来るのは、日々の練習を怠らない『努力の天才』だけ。

(……そういうところ、兄さんと龍太郎くんは似ているのかもしれない)

武道も音楽も、努力を怠ってはいけない。

その部分においては、何をしても同じ理念だと思う拓斗だ。

──だからだったのか。

早春の時期、ひとり黙々と修業をする龍太郎に憧れたのは……。



拓斗と花音は、そっと練習室のドアを開け、こちらに背を向けてバイオリンを奏でる和音の邪魔をしないよう、そっとピアノの上にバスケットとトレイを置いた。

そしてそのまま、無言でドアを閉めた。

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