桜花舞うとき、きみを想う
「よいしょ、あれ、こいつ、どうなってるんだ」
戸は、がたりと音はするものの、どんなに力を込めてもびくともしなかった。
最初の戸は簡単に外れたのに、となおもガタガタやっていると、突然ある記憶がよみがえった。
それは何年か前のことだった。
その日もたしか、今日と同じように、母が兄に戸を見てくれと頼んだような気がする。
ぼくは兄の後ろにくっついて行って、手伝うでもなく上がり框に座り、兄が戸を外す様子を見ていた。
土間にはいつくばるようにして奥に詰まった埃を取り除く兄に、ぼくが、
『そっちの戸も外せばいいのに』
と言うと、兄は、
『こっちははめ込んであってさ、大工じゃなきゃそう簡単に取れない仕組みなんだ』
と言っていた。