桜花舞うとき、きみを想う
『礼二も、今からじゅうぶんに覚悟しておきなさい』
当時ぼくはまだ18だったけれど、他人事ではなくそれを聞いた。
でもその一方、それまでには日本が勝って戦争は終わるだろうと思っていた。
しかしそれから1年弱、ぼくの思いとは裏腹に、戦況は日毎に厳しくなった。
兄を結婚させてやれないまま送り出した父の後悔。
それが今回のぼくの見合い話に繋がったのだろう。
ぼくは、ろくに心の準備も出来ないまま、放り出されるように家を出た。
(これは、大変なことになったぞ)
太陽が高くなるにつれ気温が上がり、蝉があちらこちらでうるさく鳴いていた。
石岡家は目と鼻の先なのに、歩くぼくの額からは、暑さと緊張で大量の汗が流れ出た。
やがて石岡家に着き、ぼくは勝手口で深く息を吸って呼吸を整えた。