桜花舞うとき、きみを想う
そうだ、こちらの戸は外せないのだった。
懐かしい兄の声が、教えてくれた。
ぼくは戸から手を離し、そのまま静かに両手を垂らした。
そして思った。
長男の戦死と次男の招集を同時に知らせるなんて、この国はなんて酷なことをするのだろう、と。
そんなことは鬼の所業でしかない、と。
しかも、どちらもあんな安っぽい紙切れ1枚で。
気がつくと、ぼくの頬を涙が伝っていた。
徴兵がいやだからではない。
今もきっと、ふたつの通知を握って泣いているであろう母が、あまりにも哀れだったからだ。
「どうしてこんな……」
どうしてこんな、むごい時代に生まれてしまったのか。