桜花舞うとき、きみを想う
「ごめんください」
ぼくは勝手口の戸を叩いた。
返事を待たずに戸を開けて中を覗くと、きみは台所に立って昼食を作っているところだった。
「あら礼二さん、何か御用」
「アヤちゃん、少しいいかな」
「ええ、どうぞ」
きみはそう言いながらも、鍋をかき混ぜる手を休めなかった。
「表に出られるかい」
「ここでは駄目なの?」
首をかしげるきみの後ろから、おばさんが顔を出した。
「アヤ子、いいわよ。あとはお母さんやっておくから、行ってらっしゃいな」
「おばさん、すみません。用事が済んだらすぐに帰しますから」
おばさんは、人の良い笑顔で頷いた。