桜花舞うとき、きみを想う
喧嘩をしたあの日、ぼくはきみに、笑って見送ってくれと頼んだ。
でもそれは、どうやら実現しないまま出立の時間を迎えることになりそうだった。
「アヤ子。手紙を書くよ。体を大切に」
きみの涙につられてこみ上げるものを我慢しながら、精一杯の明るさで、ぼくは言った。
きみは今にも倒れてしまうのではないかと心配になるほどに嗚咽をあげて泣いた。
「笑ってくれよ。約束したろ、笑顔で見送るって」
そう言うぼく自身の目にも、ごまかしようがないほどに涙が溜まっていた。
男らしくない、格好悪いとわかりつつ、きみと離れることが辛くてたまらなく、兄たちのように勇ましく出征できないぼくは、やはりまだ、子供だったのだ。
それ以上、何も発することができず、向かい合って手を握り合うぼくらを、両親たちは黙って見守ってくれた。
発車の時間を告げる放送を聞き、その手を離したときのきみの顔が、今も目に焼きついて離れない。