桜花舞うとき、きみを想う
ぼくは列車に乗ると、皆を見渡せる窓際の席を選び、がたつく窓を押し上げた。
さっと冷たい風が顔に吹きつけた。
「休暇をもらったら、すぐに帰ってくるのよ!」
停車中の列車の音に負けじと張り上げる母の声は、もはや絶叫と言ってもよかった。
「お母さん、アヤちゃんのこと、頼みます」
ぼくは窓の外に身を乗り出し、遠ざかる家族にいつまでも手を振った。
きみが歩廊の先まで追いかけて来て何か叫んでいたが、聞き取れぬまま見えなくなった。
ぼくは、きみの姿が見えなくなっても視線を向けたまま、頬に流れた涙が凍りつくのも気にせず、遠ざかる故郷と家族を思った。
これからぼくの前にどんな状況が立ちはだかるかわからない。
だが何があっても必ず、生きて再びこの地の土を踏もう。
ぼくはそう誓い、座席に腰を下ろした。