桜花舞うとき、きみを想う
列車の中はほとんど暖房が効いておらず、古い窓の隙間から絶えず風が吹き込む始末だった。
気が張っていたせいで気がつかなかったが、ぼくの体は雪にさらされ芯から冷えていて、列車が最高速度になる頃には体が震えていた。
周りの乗客も皆一様に寒そうに背を丸め、中には大きな毛布をすっぽり頭から被っている姿も見えた。
(これから軍隊に入ろうってのに、こんなところで風邪引いちゃかなわないや)
ぼくは慌てて手提げ袋の中から薄っぺらな毛布を取り出し、肩から羽織った。
そのとき毛布から、かすかに覚えのある香りがぼくの鼻に届いた。
あの日の夜と同じ、甘くてやさしいきみの香りだった。
その親しみのある匂いに、ぼくは安心した。
(そうだ。体は離れていても、こうしてきみはいつだって傍にいてくれる)
そう思うと一気に緊張がほぐれ、毛布に顔をうずめると、ぼくはたちまち眠りに落ちた。