桜花舞うとき、きみを想う
季節が変わり、桜満開の春を迎える頃には、ぼくら召集兵は訓練漬けの日々だった。
訓練と言っても、銃を持たされるわけではなく、ひたすら兵舎の清掃をやらされたかと思えば、走ったり、腹筋や腕立て伏せをやらされたりと、まるで戦闘とは関係なさそうなことばかりだった。
しかしそれを不満に思って上官に意見しようものなら、生意気だと容赦ない鉄拳が飛んでくることを学んだぼくらは、言われるがまま、与えられたひとつひとつをこなしていくより他なかった。
そんなある日、昼飯を終え、午後の訓練に入る直前のことだった。
ふいに背後から名前を呼ばれた。
「中園二等兵か」
振り向くと、声の主は、見慣れない軍服をまとった尉官だった。
「はいっ!中園礼二であります」
ぼくが背筋を伸ばし敬礼をすると、尉官も敬礼を返した。
「村井少尉だ。午後の訓練に入る前に話がある。一緒に来てくれ」
村井と名乗った少尉は、ぼくの返事を待たずに歩き出した。