桜花舞うとき、きみを想う


少尉といえば、ぼくらの訓練指導にあたる上官よりも上の立場で、普通であればぼくのような下っ端兵と接することなどないはずだ。

そんな偉い人が、ぼくなんかに一体何の用があるというのか。

身に覚えのないぼくが、不安を覚えながら慌てて少尉の後を追うのを、同期の仲間たちが好奇の目で見ていた。



少尉に促されて入った部屋は、普段は上官たちの会議室として使用されている部屋だった。

絨毯敷きの大部屋の中央に置かれた長椅子に座るよう言われ、村井少尉よりも先に座っていいものかと躊躇していると、それを察したらしい少尉が向かいの椅子に座った。

「ここにはきみと俺のふたりしかいない。そう固くならずに、座りたまえ」

「はいっ」

思わず威勢よく返事をすると、静かな部屋にぼくの声がこだました。

村井少尉は軽く笑い、

「固くなるなと言ってるんだ。俺はこういう立場だから無理ないかもしれないが、そういうのが苦手な質でね」

と言った。

少尉はぼくより少し上くらいの年齢で、笑うとえくぼができる、柔らかい顔立ちをした人だった。



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