桜花舞うとき、きみを想う
ぼくが座ると、少尉はひとつ咳払いをしたのち、用件を切り出した。
「早速だが、きみの故郷の役場から、きみは料理がうまいと聞いている。間違いないか」
村井少尉は、どういうわけか、やけに目を輝かせてぼくを見た。
「料理、ですか」
何事かと身構えて来たぼくは、どこから降って湧いたのかわからない話に拍子抜けした。
「役場の人の話によれば、たいした腕前だそうじゃないか」
役場と聞いて思い出すのは、永山さんの顔だった。
けれどぼくと永山さんとは顔見知り程度の間柄で、お互いの生活に踏み込んだところまでわかるほどの仲ではなかった。
そもそも、軍に情報提供をするからには、区長やそのもっと上の人の発言と考えたほうがよさそうだった。
そうなるとますます心当たりがないが、それ以前の問題として、ぼくは料理などできなかった。
けれど少尉は、首を捻るぼくのことなど気にもせず、
「どうだい。その特技を活かして、ぼくと一緒に来ないか」
と言った。