桜花舞うとき、きみを想う
ぼくには、一緒に来ないか、という言葉の意味が理解できなかった。
これから少尉がどこへ行くのかすら聞いていない段階で、気安く行きますとは言えないし、そもそも誘われたからといって班から簡単に出て行けるものなのかもわからない。
答えあぐね、膝の上で拳を握ったままのぼくに、少尉が続けた。
「悪い話じゃない。この厳しい訓練から抜け出して、軍艦で主計科の一兵として調理人になることが出来ると言っているんだ」
「調理人?」
(この人、何を言ってるんだ)
何をどうしたら、こういう流れになるのか。
なぜ料理経験のないぼくが、軍艦の調理人に指名されるのだろう。
ぼくの頭の中には、疑問符がぐるぐる回っていた。
「実はね、もうすぐ軍艦で沖縄方面へ行くことになったんだ。そこの上官から連絡があって、主計兵が足りないから、新兵から選んで連れて来いと言われた」
成り行きを語る村井少尉は、表情も言葉遣いもとても穏やかで、先程ぼくを呼びつけたときとは別人のようだった。
「それで、たまたまこの演習場の近くにいたから軍曹に話をしたんだ。そうしたら新兵の資料を引っ張り出して、中園という二等兵がいいと言うものだから、きみに声をかけたんだ」