桜花舞うとき、きみを想う


「ほとんどが若い兵たちで、皆が口を揃えて言うんだ。磯貝にはめられたってね」

「はめられた?」

「中園は、菓子が積んであることを誰に聞いたんだ」

「……磯貝さんです」

宮崎さんは、そうだと思っていたと言わんばかりに頷き、長い足を組んで身を乗り出した。

まるで外国人のような体格だから、そんな格好も、サマになっていた。

「きっと手は同じだろうから、カルピスのことも聞いただろう。磯貝はほかの兵たちにも同じ話をして、そそのかしたんだ」

「ほかにも、ぼくのように深夜に食料庫に忍び込んだ人が?」

宮崎さんは、深く頷いた。

カルピスは本来、艦付きの医師から依頼があった場合のみ、主計長である宮崎さんを通して、栄養補助剤として患者に与えられる。

「この艦では、カルピスを与えられた者は、それを口外することを禁じられていてね。破ればしごきが待っていると知っているから、これまで問題なく運用されてきたのに、そこへ別の艦から異動になった磯貝が来て、あれこれしゃべってしまったんだ」

宮崎さんは、ため息とともに組んだ足をほどくと、膝の上で拳を握った。

いくら処罰が怖くとも、喉から手が出るほど魅力的な話を目の前にすれば我慢がきかなくなるであろう若い兵たちの心理を狙った行動だと、宮崎さんは言った。



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