桜花舞うとき、きみを想う
なぜ自分がここまで磯貝さんをかばおうとするのか、理由を問われたらきっと答えられなかっただろう。
だが、そのときのぼくの中には、初めて会ったときの磯貝さんの豪快な笑い声が思い出されていた。
たとえ磯貝さんに裏の顔があろうとも、ぼくを率先して指導してくれた親切な一面や、芋の皮を剥く繊細な手つきもまた、磯貝さんなのだ。
「たしかに、意地の悪い物言いをされたりすることはあります。でもそれは磯貝さんに限ったことではありません」
人間なら誰しも、感情に左右されることがあって当然なのだ。
他の人はともかく、ぼくに関して言えば、磯貝さんの言葉はきっかけでこそあれ、そそのかされたという事実はない。
菓子の存在を知ったぼくが、田舎が恋しくなり、きみとの思い出であるカルミンを勝手に探し求めた、それだけのことだった。
磯貝さんは、真似するなと忠告をくれただけで、行けとも探せとも、ましてや忍び込めなどとも、ひと言も言わなかったではないか。
その本意がどうだったかは関係なく、それなのにぼくが原因で磯貝さんに処罰が下されるのがいやだった。
「情をかけるな、中園」
動揺を隠せないぼくの肩を掴んだ宮崎さんは、ぼくの心中を察してそう言うと、突然姿勢を正し、頭を下げた。
「お前の言うこともわかる。だが、過去の被害者のためにも、ここで終止符を打たせてくれ」
ここまでされてしまっては、ぼくはもう、何の反論も出来るはずがなかった。