桜花舞うとき、きみを想う


やがて食堂の外でいろいろ憶測をしていた先輩たちも烹炊所へ戻り、磯貝さんの存在に気付くと、彼らも一様に驚いて、

「あの宮崎主計長がここまでするとは」

と口々に言った。

その宮崎さんが来たのは、ぼくが磯貝さんに椅子を差し出したときだった。

「磯貝、もう大丈夫なのか」

宮崎さんは、磯貝さんがいるのを認めると、見るからに痛々しい彼に、こともなくそう言った。

「動けるなら、仕事に戻れ」

空気が一瞬にして凍りつくほどの、冷たい口調だった。

磯貝さんは宮崎さんに背を向けたまま、黙っていた。

「働けないならここに来るな。邪魔だ」

そのときの宮崎さんには、昨晩ぼくに見せた表情にも勝る静かな迫力があり、その場にいた誰もが息を呑んだ。

「中園、磯貝に椅子など必要ない。下げろ」

ぼくは何の返事もできず、指示に従い椅子を下げた。



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