桜花舞うとき、きみを想う
「傷が癒えるまで休暇を与えたはずだ。烹炊所内には、動けない人間は必要ない。今すぐ戻れっ」
磯貝さんは床に這ったまま、宮崎さんを見上げていた。
そんな磯貝さんを、宮崎さんはほとんど真上から睨みつけ、
「それとも何だ。傷だらけの哀れな姿を晒して、今度は周囲の同情を買って味方につけて、おれを悪者に仕立てるつもりかっ」
「宮崎主計長、やめてください。磯貝さんは……」
「情を見せるな、中園。今まで散々仲間を騙して、それでもなお、こうしてのうのうと顔を出すような奴だ。次に痛い目見るのはお前かもしれないぞ」
宮崎さんは、ぼくの制止も聞かず、まくし立てた。
「いいか磯貝。これで許されたと思うなよ。海に投げられないだけでもよかったと思え!」
(なんてことを……!)
いくら磯貝さんのしたことが軍人らしからぬ卑怯なことであったとしても、あの宮崎さんがここまで激昂するとは、誰にも信じがたいことだった。
ここは、一刻も早く退散したほうがお互いとためと思ったぼくは、
「磯貝さん、ぼくが医務室までお連れします」
と、ギプスがないほうの腕を取り、半ば強引に磯貝さんを立たせた。