桜花舞うとき、きみを想う
医務室は無人で、医師はどこかへ出ているようだった。
「とりあえず、横になりましょう」
寝台に横たわるとき、磯貝さんは痛みのあまりか、ガーゼの下の顔をぎゅっと歪めた。
そのせいで頬のガーゼが少しずれてしまい、ぼくが直そうと手を伸ばした拍子に、ガーゼがひらりと落ちた。
「あ」
意図したわけではなく、偶然見えてしまったその顔は赤黒く腫れあがり、健康的だった磯貝さんの筋肉質な頬はまったく別人のように変形していた。
「すいませんっ」
ぼくは慌てて新しいガーゼを探したが見つからず、手間取っているところへ、医務室の扉が開いた。
「やあ戻ったね、どこへ行ったかと探したよ。そんな体で出歩いちゃいかん。ああほら、言わんこっちゃない、ガーゼが取れてるじゃないか。どれ、やり直そうかね。こっち向いて。ああ、きみ、彼を連れて来てくれたのかい。ご苦労さんだったね。持ち場に戻っていいよ」
その人は白衣を身に纏っており、入って来るなり間髪入れずにしゃべり出したかと思えば、同時に手際よく磯貝さんの顔にガーゼを貼っていた。
ぼくは呆気に取られながらも、
「では、よろしくお願いします」
医師にそう告げ、医務室を後にした。