桜花舞うとき、きみを想う
当時は、結婚相手を自分で選ぶことなど、ほとんどなかった。
みな年頃になると、親が相応の相手を探し、子たちは言われるがまま夫婦となった。
満州や朝鮮に渡った男の元へ、たった1枚の写真を頼りに嫁ぐ、写真花嫁というのもあった。
それを思うと、ぼくらはなんと恵まれていたことか。
「突然で驚いたろ」
息が止まりそうなほどの緊張は、言うべきことを言ったことで少し落ち着いたように感じた。
ぼくが小さく安堵の息を吐いたとき、きみが言った。
「結婚って…礼二さん、今、結婚って言ったの」
その声はとても小さくて、境内にそびえ立つ木立から響き渡る蝉の声にかき消されそうだった。
「そうだよ」
とぼくが言うと、きみは腑抜けのような顔をして、その場にへたり込んだ。
ぼくに握られたままのきみの手は、少し震えていた。