桜花舞うとき、きみを想う
「敵艦だ!戻るぞ!」
「でも磯貝さんは……」
「医者が一緒にいるんだ、心配ない!」
ぼくは宮崎さんに引っ張られるがまま、一気に混乱状態に陥った艦内を走った。
(敵艦だって……?)
走りながら辺りを見ると、あちらこちらから兵が姿を現し、戦闘体制に入るのがわかった。
(そんな、どうして急にっ。どうしよう、どうしよう)
息を切らせながら、高まる動揺をどうすることもできず、ぼくは宮崎さんにしがみつくようにして走った。
初めての体験に、周囲を見回す余裕も皆無で、頭の中は恐怖でいっぱいだった。
宮崎さんは力強くぼくを支えながら、そんなぼくを励ますように、おれの近くにいれば大丈夫だから、とか、お前そんなんで握り飯作れるのか、などと笑ってみせた。
烹炊所まであと少しというところで、艦の後方から再び轟音が鳴り響いた。
「飛べっ!」
ぼくと宮崎さんが飛び込むようにして烹炊所に入ると、中では既に、主計兵たちが大量の米を広げ、握り飯を作っていた。