桜花舞うとき、きみを想う
「そういえば、ぼくと同じ日に令状が届いたと言っていましたね」
ぼくは腕立て伏せをやめ、その場に胡坐を掻き、永山さんを見上げた。
「覚えていてくれたんですね」
「あの日のことは、今でもときどき思い出しては気にしていました。やり場のない怒りを永山さんにぶつけてしまったこと、本当に申し訳なく思っています」
今更ながら、ぼくは永山さんに詫びた。
「そんなこと、お互いさまですよ。ぼくだって中園さんのお兄さんの戦死に対して、ご遺族に気の利いたことも言えず、あとで後悔していました」
永山さんは、言いながらぼくと向かい合って同じように胡坐を掻いた。
ぼくは、永山さんの言葉にほっとした。
すっきりしない別れをして以来、心の片隅に引っ掛かっていた棘が、すっと抜け落ちたような気分になった。
「本当にすいませんでした」
どちらからともなく、また頭を下げた。
同時に顔を上げ、目が合うと、ぼくらは笑った。
そして、少し話しませんか、と誘われ、ぼくは永山さんと兵舎へ入った。