桜花舞うとき、きみを想う
「こんなところで会うなんて、変な感じだなぁ」
「まったくだね」
今まで永山さんとこんなに砕けた話し方をしたことはないのに、同じ故郷から出て来たというだけで、ぼくらの間には確固たる繋がりが生まれ、それは昔からの親友であったかのような親近感を抱かせた。
「実はここへ来た日に、外の水道で知っているような後ろ姿を見かけてね。あれから知り合いには会わなかったから錯覚だったと思っていたが、今思えば永山さんだったんだね」
「へえ、そうだったの。毎日訓練で、食事のとき以外は別の班の人と会う機会などないものなあ。中園さん、食堂ではどこに座ってるの」
「入り口に近い、真ん中の机です」
「ああ、それじゃあ気付かないのも無理ないや。ぼくはいちばん奥だもの」
「そうかあ」
なんてことない会話が、訓練漬けのぼくらにとって、何よりも貴重で楽しかった。
永山さんは、東京の空襲で、ぼくと同じように、家はなくなったが家族は無事であったことや、入隊してから体つきがまったく変わって、今なら自転車なしで役場の仕事をこなせそうだ、などといろんな話を聞かせてくれた。
ぼくの家族が無事であることを知ると、屈託のない笑顔で喜んでくれた。
故郷にいた頃は堅物だとばかり思っていたが、こうして話してみると、裏表のない、なんとも気持ちのいい人だった。