桜花舞うとき、きみを想う
部屋の時計を見ると、次の訓練開始まであまり時間がなかった。
名残惜しいがまた後日、と言葉を交わしたとき、ふと思い出したように永山さんが訊いた。
「ところで、中園さんは、これまではどこにいたの。まさか戦闘機に乗っていたのかい」
ぼくは、すぐに答えることができなかった。
召集されてからのぼくの経歴は、あまりに特殊であり、あまりに卑怯と言わざると得ず、だけどそれにはぼくなりの思いがあったわけで、それ余すところなく伝えるには、残った時間では到底足りないのだ。
「ま、まあいろいろあってね。今日は時間がないから、また次に話すよ」
永山さんは腑に落ちない顔をしたが、壁掛け時計を見ると、
「本当だ、こんな時間か。ではぼくは戻るよ」
と席を立った。
「やれやれ、また訓練か。たまには休日が欲しいものだね」
「本当に」
永山さんは、挨拶がわりに軽く手を挙げて、ぼくに背を向けた。