桜花舞うとき、きみを想う
ぼくが居間に入ると、父はすでにお猪口を傾けていた。
母は父の向かいに座り、ぼくには背を向けていた。
父の横で酌をしていたきみが、ぼくに気付いて、
「礼二さん、お帰りなさい」
と笑顔を見せた。
「あら、お帰り。気付かなくてごめんなさいね」
振り向いた母の手には、茶色い封筒があった。
「ただいま。お父さん、今日はやけに早かったね」
「おお、礼二、今日はお前にいい話を持って来てやったぞ」
父は、ほんのり頬を赤くして、にこやかな目をした。
いつも陽気な父が、今夜はさらに上機嫌だった。
「へぇ、何だろう。お母さんやアヤ子は、もう聞いたの」
ぼくが訊ねると、母ときみは顔を見合わせて微笑んだ。