桜花舞うとき、きみを想う
外から戻って汗だくのぼくは、とりあえず着替えを済ませ、また居間に戻った。
さっきまで父の酒とつまみが乗っていた食卓には、すでに夕飯の用意がされていた。
「今日はね、お米が手に入ったのよ」
嬉しそうに母が言った。
ありがたいことに、母の実家が農家である我が家は、世間で言われているほど食料に関して不自由はしていなかった。
それでも配給に頼ることがほとんどの食生活において、白米が手に入る機会は稀だった。
「ずいぶん久しぶりだね。うまそうだな」
しばらくぶりの炊き立ての米は、真珠のように輝いて見えた。
「食後には西瓜もあるのよ」
「今、表で冷やしているから」
「いやぁ、豪勢だな。礼二、早く座りなさい」
皆が口々に言う。
いつにも増して饒舌な彼らを前にして、ぼくはそれを半ば呆気に取られて聞いていた。