桜花舞うとき、きみを想う
腰を左右に捻ると、ボキボキと小さな音がした。
この分では、明日はひどい筋肉痛になりそうだ。
やれやれ、とズボンのポケットに何気なく手を入れたときのことだった。
ポケットの中が少し粉っぽくて、手を出すと、指先に白い粉が付着していた。
「何だ……?」
恐る恐る指を鼻先に近づけてみたが、とくに匂いはなかった。
ぼくは指を見つめ、しばらく考えた。
そして、それが何なのかをふいに思い出すと、全身に小さく鳥肌が立った。
「まさか……」
もう一度匂いを嗅いでみると、ほんのわずか、認識できるギリギリの程度ではあるが、薄荷の匂いがした。
巡洋艦の菓子保管庫で宮崎さんがくれた、カルミンだった。
沈没のときにポケットの中で溶けたカルミンの残りが、乾燥してポケットの奥底に付いていたのだろう。
ぼくにはなぜか、部下を守ると言った宮崎さんの魂が、ここにあるような気がした。