桜花舞うとき、きみを想う
手紙か、それとも紙幣でも入っているような、細長い封筒。
ぼくが中を覗こうとしたとき、父が、
「それはお前たちの新婚旅行の費用だ」
と言った。
「えっ」
咄嗟に言葉が出ないぼくを見て、父が笑った。
「わたしたちと石岡の家から、それと会社の専務からの祝い金が入っている」
「専務、ですか」
専務といえば、ぼくときみが結婚するきっかけになった、見合い話の相手のはずだ。
「ぼくは見合いを断ったというのに、先方はお気を悪くはされなかったのですか」
ぼくの言葉に、父は口の端を上げて鼻をフンと鳴らした。
「なぁに、あちらは引く手数多だ。むしろこんな面白味のない男に嫁がずに済んで、胸を撫で下ろしているだろうよ」
父は酒の勢いも手伝って、毒舌で饒舌だ。