桜花舞うとき、きみを想う
「山里くんは、独身だったね。郷はどこなの」
ぼくの問いに、彼は視線を写真から動かさずに答えた。
「岐阜の田舎町だよ。こんなに美しい人、おれの町にはいないなあ。羨ましいよ」
そう真っ直ぐに褒めちぎられると、ぼくが褒められたわけでもないのに照れてしまう。
「幼馴染だった子で、ぼくに見合い話が来たのだけど、それを断ってこの子と結婚することにしたんだ」
ぼくは聞かれてもいないのに、きみとの馴れ初めを話して聞かせた。
すると、山里くんは思いのほか興味津々の様子を見せた。
「へえ、そんなことあるんだな。おれの田舎では、結婚相手を自分で選ぶなんて考えられないや。その、見合い相手は怒らなかったのかい」
「それがさ、笑っちゃうような話だけど、相手の家が父の会社の専務で、こちらとしては当然気分を害しただろうと思っていたのに、お祝いなんてくれたんだ」
「お祝いだって?!」
「新婚旅行の費用や千疋屋の西瓜をくれた」
山里くんは、目を白黒させて驚いていた。
ぼくだって当時は専務の考えていることがわからず驚いたものだし、彼のそういう反応も無理はなく、それでもころころと変わる山里くんの表情がおかしくて、ぼくは久しぶりに腹の底から笑った。