桜花舞うとき、きみを想う
それからぼくは、新婚旅行の話を山里くんに聞かせた。
彼はとりわけ水族館の様子について詳しく知りたがり、ぼくは記憶を辿って、あの楽しかった旅をふたたび巡った。
「やっぱり海豚ってのは、でかいのかい」
「でかいなんてものじゃないさ。ぼくの身長か、もしかしたらそれ以上あるかもしれないな。とにかく、あれを魚なんて思っちゃいけないよ」
「だけど奥さんは、かわいいかわいいって言ってたんだろ」
「まあ見た目は、あいくるしい顔をしていたよ。丸っこくてね」
「でも普通はアヤ子さんくらいの年頃の女の子なら、怖いって言いそうなものじゃないか」
「彼女はわりと好奇心が旺盛だから、水族館が気に入ったようで、いつか日本中の水族館に行きたいなんて言ってたよ」
「そりゃあ、きみ、何としてでも生還して、連れて行ってあげなくちゃな」
そのときぼくは、生還、という響きにはっとした。
山里くんも、ぼくの反応に気付いたようで、バツの悪い顔をした。
「せっかく盛り上がっていたのに、水を差すようなことを言ってごめん」
ぼくは慌てて首を横に振った。