桜花舞うとき、きみを想う
山里くんが謝るようなことではない。
どうしたって、ぼくらの頭のほとんどを占めているのは、自らの寿命のことなのだし、お国のためと叫ぼうとも、内心それどころではないのが本音であることは、誰も口に出さずともわかりきっていた。
どんな話をしていても、つい、生きて帰れたら、とか、生還できたら、という希望を含んだ言葉が口をついて出る。
「日本中の水族館、いいよな。できることなら妻と一緒に行きたいけど、ぼくが生還できるとしたら、それは出撃前に終戦を迎えたときだものな。そうでなきゃ……」
そう言ったとき、ぼくの言葉に山里くんが被せるように言った。
「中園くんはさ、もう志願したのかい」
山里くんは、わざと視線をぼくから外しているのか、窓の外を見ていた。
ぼくが小さく、まだだけど、と答えると、ふと顔をこちらに向け、
「きみ、教官とは懇意なんだろ。だったら、今のうちに故郷に帰してもらえよ」
と言った。
「帰してもらうって……」
冗談でも言っているのかと思ったが、山里くんの目は真剣そのものだった。