桜花舞うとき、きみを想う
ぼくは妻帯者であり、長男ではないけれど、兄が戦死しているから家を継ぐ立場にある。
除外の条件にすべて当てはまると言っていいだろう。
けれど、それを申告することが意味を持つのか、山里くんの話から推測するに、答えは否。
(でも万が一ってことも……)
ぼくの、この希望的観測が過ぎる癖は愚の骨頂だが、切羽詰った状況であればあるほど、一握りにも満たない可能性を信じたくなるのだった。
「自分は妻がおり、家の跡継ぎでもありますので」
しかしそう切り出した直後、ぼくは自分の発言をすぐに後悔した。
少佐の顔色が、一瞬のうちに変わったのがわかったからだ。
ぼくは言葉に詰まり、重苦しい沈黙の中、少佐と正面に向かい合っていた。
少佐の威圧感に気圧され、息苦しさすら感じたとき、
「もう一度言うが、妻帯者または跡継ぎであっても、志願の申し出があれば受諾する」
恐ろしく低い声が、沈黙を破った。