桜花舞うとき、きみを想う
町中はすっかり戦時態勢一色で、こうして大きな笑い声を立てることは不謹慎という風潮に満ちていた。
でも家族揃って縁側に腰掛け、真っ赤な西瓜の甘い汁をすするのも、たまにはいい。
こういう時間もなければ、息が詰まってしまうというものだ。
ぼくは庭に向かって、口の中の種を思い切り飛ばした。
「わたしも」
すかさず反応したきみも、勢いよく飛ばした。
「見て、礼ちゃんよりも遠くへ飛んだわ」
こんな風にぼくを礼ちゃんと呼んではしゃぐ姿を見ると、妻とはいえ、まだ16の少女なのだなと気付かされた。
ぼくらは西瓜を食べている間中、種飛ばしを競い合った。
そんなぼくらを、両親が笑って見ていた。
「この分だと、来年の我が家の庭は西瓜畑になるな」
「うれしい!」
きみが無邪気に笑った。