桜花舞うとき、きみを想う
その日の夜、寝床に就いてからも、きみはまだ西瓜の話をしていた。
「すっごく甘かったわね」
「来年、本当に庭が西瓜だらけになったらどうする」
「ふふ、そうしたら、毎日お腹いっぱい食べるわ」
「ぼくは御免だよ、腹が西瓜の汁でいっぱいになるなんてさ」
ぼくがそう言うと、きみはころころ笑った。
「そうは言うけど、あの西瓜、千疋屋のですってよ。そんなのがお庭にできたら嬉しいわ」
「千疋屋だって?」
それを聞いて、思わず布団から体を起こすほど、ぼくは驚いた。
「そんな高級なものが、どうしてうちに」
千疋屋といえば、言わずと知れた老舗の果物専門店だ。
金銭的にある程度の余裕がある我が家でも、特別なことがない限りは、そうそうお目にかかるものではなかった。
いくら結婚祝いと言ったって、ちょっと豪勢すぎやしないかと思った。